概要

世の中に「流体」として振る舞うものは数多くあり,流体の力学的性質を調べる「流体力学」が物理学や工学,あるいは社会で果たしている役割は計り知れないものがあります.流体力学に端を発した考え方やものの見方が理学や数学の様々な分野に影響を及ぼしていることは,疑いの余地のないことです.流体現象の多くは密度や流速といった巨視的な物理量を未知変数とするナビエ・ストークス方程式によってよく記述されます.流体の巨視的変数を用いて流れの性質を調べる「狭義の連続体仮定」にもとづく流体力学は,それだけで非線形波動,乱流,カオスといった新しい研究対象を生み,絶えず流体力学の自律的発展を促しています.

その一方で,ナビエ・ストークス方程式を基礎とする流体力学の枠組みは,流れを連続体とみなせる系に話を限っても万能なものではないことに留意しなければなりません.気体を例にとっても,巨視的な変数のみで流体の状態が記述できるためには,考えている現象の時空間スケールが気体を構成する分子同士の衝突に関係する時空間スケールよりも十分大きく,気体の状態が局所的に平衡状態とみなせるという暗黙の了解があります.したがってそのような前提条件が系全体として満足されない場合,あるいは系の大部分で満足されていても一部に非平衡性の強い領域が存在する場合には,従来の巨視的流体力学だけで流れの振る舞いを記述し,現象を予測することはできません.この場合には,取り扱う情報の範囲を気体を構成する分子の速度にまで広げた「広義の連続体」としての流体の振る舞いを考察していく必要性が生じます.逆にそのような広い視点をもって連続体理論の枠組みを眺めると,流体力学が巨視的な情報だけで閉じるものではないことが見えてきます.これは巨視的方程式と考えられているナビエ・ストークス方程式にすでに含まれている粘性係数が,理論的には微視的情報を反映したものであることからも明らかです.

本研究室では,気体の流れを中心に,従来の連続体理論の枠組みだけでは解明できない非平衡流体現象に興味を持って研究を行っています.非平衡流体の振る舞いを,多数の粒子集団の振る舞いを統計的に記述する運動論的方程式の理論解析(特異摂動解析)や大規模・中規模数値シミュレーションを用いて調べると同時に,付随する数理モデルを構築し,新しい流体力学の世界を開拓することを目標に研究を行っています.

研究室の基本方針

当研究室では時代の流れを意識しつつも,当該分野で普遍的な価値をもつ成果を生み出すことを基本方針としています.専攻の理念に沿い,理学と工学を高いレベルで融和させることを目指します.同時に学生の適正に合わせた課題を設定し丁寧な指導を心がけます.学問に対する真摯な気持ちとチャレンジ精神をもって研究に当たればきっと得るものがあるはずです.

研究室代表 田口 智清